寒の入りから9日目にあたる13日、新潟県五泉市の菅名岳(すがなだけ=標高909・2メートル)で、地元の銘酒「菅名岳」の仕込み水をくむ「第19回寒九の水くみ」が行われた。全国から集まった一般参加者が往復約2時間をかけて、水源まで歩いて水をくむイベントに記者も参加してみた。
醸造元の近藤酒造(五泉市)によると、古来、寒の入りから9日目の水は1年で一番澄み、腐らないと言い伝えられ、酒造業界では、この日の水で仕込んだ酒が最高の出来となるとされる。
「夏でも豊富な水量を誇る菅名岳のわき水を使って酒を作りたい」という蔵元と地元の酒販店の思いから、平成4年に水くみが始まり、今回が19回目となった。
完成した新酒がプレゼントされるとあって、年々参加者が増加し、最近はその数、約400人にも上っている。
午前9時ごろ、ふだんは雪に埋もれて静かな登山道に、多くの日本酒ファンが集結した。みんな冬山用のフル装備だ。
目指すは中腹にある「どっぱら清水」。
ここからわき出る名水を男性は20リットル、女性は10リットルタンクにつめて運ぶ。ちなみに、「どっぱら清水」の「どっぱら」とは「胴腹」のことで、山の真ん中にある清水という意味らしい。
新潟地方気象台によると、この日の五泉市周辺は積雪約50センチ。時折とどろく雷鳴に参加者の不安が募る。
それでも、借り受けたポリタンクを背負って登山が始まった。
山から吹き下ろす強風が、水分を多く含んで凍った雪粒を容赦なく顔に打ち付ける。
「取材をしなければ…」と参加者らに話しかけたり、カメラのシャッターを切ったりしながら歩き続けたが、雪がぶつかるあまりの痛さに前を向くのもいやになってきた。そんなとき、早々と水をくみ終えて下山する参加者がかけてくれる「がんばって」「お疲れさま」などの言葉が暖かかった。
一面の銀世界を沢伝いに歩くこと約1時間で、ようやく水くみ場にたどり着いた。わき水を飲んでみるとクセがなく、まろやかな舌触り。
山を歩き続け、渇いたのどに染み込むようだった。
さあ下山だ。
だが、20リットルの水が入ったタンクは思った以上に重かった。足元がふらつく。沢わたりで滑って転び、人一人ようやく通れるような細い雪道に足が埋もれてまた転ぶ。
ようやくふもとに戻り、水をタンク車に移したときには、全身がびしょぬれになっていた。
スタッフらも「この19年で一番大変な水くみだった」と振り返った。天候に恵まれた年は、1人で何往復もする猛者もいるが、今回は吹雪のため1往復のみだった。
新潟市中央区から来た大塚あつ子さん(40)は、「今年で4回目の参加。知人と一緒に始めて、病みつきになった。いいお酒は苦労しないとできないんだと実感した。いつか4往復するのを目標に参加し続けたい」とか。
なかには、15年連続参加という女性もいた。
みんなでくんだ水は約2万リットル。新潟県の酒米「越淡麗」を使って仕込み、1升瓶約2万本分の清酒となる。
辛口ですっきりした味わいが特徴で、来月には絞り工程を経て完成し、参加者には販売前にプレゼントされる。
朝6時に東京を出発してやってきた米国人のハラルド・デロップさん(42)は「日本酒は大好き。でも、菅名岳は人が歩いて水をくんでいるとは知らなかった。すばらしい」と驚きの声を上げていた。
ところで翌日、運動不足の記者の両足は当然のようにひどい筋肉痛に襲われた。
しかし、来月できあがる新酒のうまさに思いをはせれば、あの雪の中の苦労も悪くない…と思えてくる。(高木克聡)
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